Wednesday, March 08, 2006

解禁その3-カメ(完)

他府県ナンバーでいっぱいの駐車場(今日は平日だよ!)を抜け、
巨大な噴水を右手に見ながら浜へと続く右カーブのスロープを一気に登る。

スロープの突き当たりは、江ノ島~茅ヶ崎まで続くサイクリングロード。

既に多くの人々が思い思いの時を過ごしている。 幸い顔見知りはいない。

普段は引地川の西側、通称「舟前」と呼ばれるローカルオンリーのポイントに入るが、
舟前はあるレベル以上のサーファーに許された鵠沼の聖地。

ビジターに紛れてしまいたい自分に情けなさを感じる。
今日はリハビリのつもり。

ule号からボードを降ろし、右肩に担いで右の側頭部と右腕とで支える。

ワイキキのビーチボーイスタイルのボードの運び方。
反則仕様のボードは幅広で厚みがあるので、脇の下で抱えられない。
左手にはリーシュコード。

砂浜に下りる階段から波打ち際まではおよそ70m位か。
以前は何気なく歩いていた砂浜、 足元が不安定でボードの重みが肩にのしかかる。

一気に歩けず途中で休憩。波のチェックを装う自分が哀れ。

波打ち際でボードを降ろし、 ケガを避けるために普段の倍の時間を掛けて入念なストレッチ。
身体が硬い。

多少波が悪くても、サーファーが少なく、空いているポイントを探す。

板をコントロール出来ないと混んだ鵠沼では接触事故を引き起こすため、
これは新しいボードを降ろす時の鉄則。

それに今日は4ヶ月ぶりの「運動」

太腿の筋肉を伸ばすため、 正座の姿勢のまま後ろに寝そべって背中を砂に付けると、
冬の青空で2羽のトンビが弧を描いていた。

帰ってきたよ。

ボードにリーシュコードを付け、 一方の端を右足の膝下に固定して海に入る。
ブーツを履いているためスーツの中に水は入ってこないが、
水圧で脚が締め付けられる。
真冬の海の懐かしい感覚。
波のサイズは膝~腿、セットの一番大きな波で腰くらい。
リハビリには丁度良いサイズ。

腰の深さまで歩いて、セットの合間をみてボードの上に腹ばいになる。
初めてのボードで前後のベストポジションを探るのはとても大切な事。
本能的にベストポジションを探り当て、ゆっくりとパドリングを始めた。

速い! さすがに櫛本さんの反則ボード。

しかし上体を反らす姿勢を保てない。すぐに胸がデッキについてしまう。
これではパドリングの支点である肩が下がり、
漕ぐごとにボードが左右のローリングをおこして抵抗を生んでしまう。
所謂、僕らがバカにする「カメ」さんサーファーのパドリング。

つくづく顔見知りがいなくて良かったと思う。 反則ボードが泣いている。

それでも倍近い時間をかけて沖のラインナップに到着、
ボードの上に座って波待ち姿勢。
沖のウネリを見つめる。 腕が上がらない。
心臓がバクバク言ってる。

癌を克服できても、心臓麻痺で死んだらお笑いだよな~。

と昨年の夏以来の心臓の鼓動の早さに一瞬不安がよぎる。

丁度一休みして心臓バクバクが治まった頃、 南西諸島からのうねりが届き始めたのか、
僕のポジションにもセットが入ってくる。

ボードを反転させ岸に向ける。最初はユックリと大きく水を掻く。
波の到達スピードに合わせるために、後ろを振り向く。
ところが胸を反っていないためか、首が回らない。真横しか向けない。

ここまで衰えていたとは....

勘に頼って、ボードが滑り出すために必要なスピードが得られるまで、 全力のパドリング。
あと4掻き。one、two、three、fourでテイクオフ。

ダメだ。 one、two止まり.....
トドメの2掻きが出来ない。

肩と上腕と背中の筋肉が悲鳴を上げている。
横にいる同年代のオッサンサーファーよりも早くパドリングをスタートさせているのに、
何度やっても波に乗れない。あと2掻きが足りない。
何度やっても.....

柔らかいことで評判の10万円のzeroのウェットが、
大リーグボール養成ギブスのように感じる。
涼しい顔をして乗っていくオッサンの哀れむような視線が胸に痛い。

setの波は次第に大きくなっていく。
最初の波に乗ろうとしてギリギリまでパドルを続けて乗れなかった場合、
そこは次に来る更に大きな波のインパクトゾーン(崩れる場所)。
渾身のパドルで疲れ果てた私を波が襲う。

こんな屈辱は、初心者の時以来.....
それならばと、波のインパクトゾーンでノーパドルのテイクオフを試みる。
波が崩れるタイミングを見計らい、板のテールを波の斜面に突き刺して、
その浮力による反動で飛び出してくる板のスピードを利用する高等技術。
これなら最後の2掻きは不必要。

ところが、今度は滑り出しても立ち上がれない。
立ち上がるだけの力が残っていない。

腹ばいのまま何も出来ずに岸まで到達。
普段密かに「カメ」と呼んでいる初心者サーファーそのもの。

波打ち際でも立ち上がることが出来ず、
やっとの思いでボードを砂浜に引き上げた後は、 全身の疲れで仰向けに倒れこんでしまう。

空には先程と同じトンビが2羽、弧を描いている。

急に日差しが遮られ、ふと見ると古くからの仲間の笑顔....

「見ていたよ。ずっと」

眩しい逆光の中で、彼のクシャクシャの笑顔の目元がキラッと光った。

(完)

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